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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)9924号 判決 1957年3月14日

羽後銀行

三井銀行

事実

原告は請求原因として、被告自由ケ丘事業協同組合は昭和三〇年五月二日、訴外日ノ本産業株式会社に宛てて合計金額二、一〇六、〇〇〇円の約束手形四通を振り出したが、訴外日ノ本産業株式会社は右約束手形を訴外株式会社菊地製材所に白地式裏書によつて譲渡し、同訴外会社は右裏書の被裏書人として自己を補充記入した上訴外株式会社羽後銀行一日市支店に裏書譲渡し、同訴外銀行支店はこれらを株式会社三井銀行に取立委任裏書をなし、同訴外銀行は右約束手形を満期にそれぞれ支払場所に呈示して支払を求めたが拒絶された。訴外株式会社菊地製材所は、訴外株式会社羽後銀行一日市支店から各約束手形を買戻した上これを原告に裏書譲渡した。よつて原告は、被告に対し右手形金合計金二、一〇六、〇〇〇円とこれに対する完済までの年六分の割合による遅延損害金の支払を求めると述べた。

被告自由ケ丘事業協同組合は、被告の業務の執行はすべて理事会の議決を経なければならないものであること中小企業等協同組合法の規定するところであるが、本件各約束手形は何れも被告の理事会の議決を経ないで振り出されたものであるから、その振出は無効である。仮りにそうでないとしても、本件各約束手形は何れも裏書の連続を欠くから、原告は同手形上の権利を取得し得ないと述べた。

理由

被告自由ケ丘事業協同組合は、本件各手形は被告の理事会の議決を経ないで振り出されたから振出は無効であると主張する。中小企業等協同組合法第三六条の二は、中小企業等協同組合の業務の執行は理事会が決すると規定するが、右は理事会が組合の業務執行の意思決定をなす権限を有することを規定したものであつて、理事会が業務執行自体をなす権限を有する旨を規定したものでないことは明白である。そして、同法第四二条によつて準用される商法第二六一条、第七八条によれば、理事は組合を代表して組合の営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をなす権限を有するから、約束手形の振出をなす権限を有することは明らかである。ところで本件各約束手形の振出について被告の理事会の議決を経なかつたことを認めるべき証拠はなく、また仮りに、理事会の議決を経なかつたとしても、そのために振出が当然に無効になるとは考えられない。けだし理事会並びに理事について中小企業等協同組合法は前記のとおり規定するのみならず、理事会の議決を経るか否かは組合内部のことに属し、もとより手形上に表示されるものではないから手形の流通に関与する第三者には全く判らないことであり、かかる事由をもつて手形の振出の効力を左右することは手形自体の性質からみても全く許されないことであるからである。そして証拠によれば、本件各約束手形は、何れもそれが振り出された当時の被告の適法な代表理事がその正当な権限に基いて振り出したものであることが認められるから、被告の主張は理由がない。

次に、証拠によれば、本件各約束手形は原告主張の如く、裏書譲渡、支払のための呈示、拒絶がなされて原告がその所持人となつたことが認められるから、右各約束手形は、形式上裏書の連続を欠くけれども、原告がその実質上の権利承継をなしたものと認められる以上、右手形の所持人たる原告は手形上の権利を行使し得るものと解する。

よつて原告の請求はすべて理由があるとしてこれを認容した。

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